大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)80号 判決

大阪市東区南久宝寺町三丁目二二番地

原告

株式会社今正

右代表者代表取締役

今小路正人

右訴訟代理人弁護士

谷正道

山口一男

同市同区大手前之町一丁目

被告

東税務署長

木田清蔵

右指定代理人

鎌田泰輝

葛本幸男

池田孝

池沢健三

重松靖久

大作七郎

右当事者間の昭和四二年(行ウ)第八〇号物品税更正処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和四一年二月一日付でした原告の、(一)昭和三九年九月分の物品税の税額を金一三、五八〇円と更正した処分のうち金九、七五一円を超える部分、(二)同年一〇月分の物品税の税額を金二九、九八〇円と更正した処分のうち金一五、一三五円を超える部分、(三)同年一一月分の物品税の税額を金一二〇、二〇〇円と更正した処分のうち金九三、八〇〇円を超える部分、(四)同年一二月分の物品税の税額を金三一七、二〇〇円と更正し、これに対する原告の審査請求にもとづく判決を以て金三〇九、三八〇円と減額変更せられた処分のうち金二二四、〇〇七円を超える部分、(五)昭和四〇年一月分の物品税の税額を金四九、六八〇円と更正した処分のうち金四三、七五三円を超える部分、ならびに右各増差額に対応する加算税((一)、(二)については無申告加算税、(三)ないし(五)については過少申告加算税)の賦課決定処分はいずれもこれを取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを九分し、その二を原告の、その余を被告の、各負担とする。

事実

原告訴訟代理人等は、「被告が昭和四一年二月一日付でした別表第一「裁判後」欄記載の、原告の昭和三九年九月分より昭和三九年九月分より昭和四〇年一月分までの物品税の税額を金五二二、八二〇円と更正した処分のうち、別表第二記載の同期間中の申告税額金三四四、九二〇円を超える部分ならびに右各増差税額に対応する加算税(昭和三九年九、一〇月分は無申告加算税、同年一一月分より昭和四〇年一月分までは過少申告加算税)の賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因ならびに付加事実として次のとおり述べた。

一、原告は、洋傘、シヨール、毛皮製品等の卸売業を営む者であるが、昭和三九年九月より昭和四〇年一月までの各月において小売販売した毛皮製品の物品税について別表第二記載のとおり申告したところ、被告は、昭和四一年二月一日、別表第一「裁決前」欄記載のとおり右各月分の物品税の課税標準および税額を更正(増額)する旨の処分および右各増差額に対応する加算税の賦課決定処分をした。

二、原告は、昭和四一年二月一五日、被告に対し右更正処分につき異議申立てをしたが、同年五月一一日、これを棄却されたので、さらに同月二六日、大阪国税局長に対し審査請求をしたが、昭和四二年三月一三日、別表第一「裁決後」欄記載のとおり認定し、「昭和三九年一二月分については原処分の一部を取消す。その他の月分についてはすべて請求人の請求を棄却する。」との裁決があり、昭和四二年三月三〇日、その旨通知を受けた。

三、しかしながら、昭和三九年九月より昭和四〇年一月までの間において原告が販売した毛皮製品のうち小売りしたものは、別表第二「課税標準」欄記載のものだけであり、それ以外のものはすべて卸売りにかかるものであつて、物品税の課税されないものである。

従つて、別表第一「裁決後税額」欄記載金額のうち別表第二「税額」欄記載金額を超える部分の更正処分および右各増差額に対応する加算税の賦課決定処分は、いずれも違法のものである。

よつて、原告は被告に対し、右各処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

四、(一) 被告主張事実第三項(一)は否認する。

(二) 同第三項(二)は認める。

原告は、後記(三)のサービス販売分について、被告あての毎月分物品税納税申告書および第一種物品小売販売業開始申告書を提出させられた。しかし、右各申告は、「卸売業者であつても小売した場合は物品税を納めねばならない。」とする被告の税法誤解による申告強要の結果であり、原告が、毛皮製品の小売業者であることを自認したり、また右サービス販売について課税原因の発生を認めたものでもない。

(三) 被告主張事実第三項(三)は争う。

原告は、毛皮製品につき物品税の納税義務者ではない。すなわち、物品税法第三条第一項は、毛皮製品の納税義務者を「小売業者」と明定し、さらに小売業者以外の者で特に税法上小売業者とみなして納税義務を課す者を制限列挙しているが(同法第五条第五、六項)、原告のような卸売業者は、右税法所定の納税義務者のいずれにも該当しない。

さらに、税法は、課税物品の製造者と卸売業者を「販売業者」と呼称し、これに対しては「小売業者」に対する納税義務とは別異の検査受忍義務や記帳義務等、税保全上必要な二、三の義務を課している(同法第三六条、同法施行令第五二条第四項等)。

この税法上の用語の峻別と同法第三条第一項の明文規定とを併せ考えると、税法は、卸売業者については、たとえ第一種物品を消費者に販売することがあつても、これに対して納税義務を課さない建前をとつているものというべきである。

ところで、物品税法は、右「小売業者」の意義については、定義規定を設けていないので、或る者が小売業者に該当するかどうかは健全な社会通念に従い、店舗の構造、商品展示の方法、仕入先、販売先、販売価格、取引慣行等諸般の事情を総合して判定すべきである。

原告は、繊維製品、雑貨類等の卸売市場として有名な船場久宝寺問屋街に店舗を構え、洋傘、シヨール、毛皮製品等の卸売に専念している者であつて、毛皮製品を消費者に販売するための物的、人的施設を有せず、かつ小売業者としての利回り計算においても毛皮製品の仕入、販売をしたことは全くない。ただ、右卸売営業経営につき直接密接な関係にある金融関係筋、商品仕入先(毛皮製品以外)、関係官公署職員等から等に請われてこれら小売業者以外の者にサービスとして毛皮製品若干を卸売価格と同程度の低廉な価格で販売したことはあるけれども、その合計額は、本件更正処分の対象期間中における毛皮製品の総取引金額約二、〇〇〇万円に比し僅か一七〇万円にすぎず、原告としては、もつぱらその営む卸売営業上の必要措置として右のような便宜を図つたもので、固有の卸売営業に附帯するサービス業務の一環をなすものにほかならないから、社会通念上は、なお卸売業務の範ちゆうに属するものというべきである。したがつて右サービス販売は、卸売業者としての原告の業態をその範囲において小売業に転化せしめたものということを得ない。しかも、何人が納税義務者であるかは実定法上の問題であり、課税の権衡論や抽象的な税法理論に籍口しての恣意的な行政解釈は許されない。

従つて、原告は現行物品税法上、毛皮製品の物品税納税義務者たる適格は全然有しないものというべきである。

(四)1 被告主張事実第三項(四)は争う。

2 原告店舗のある船場久宝問屋街では、古くから「現金卸」という通常の卸形態(掛売)とは異つた形の卸取引が行なわれており、原告も、右店舗において、金取扱商品について、この「現金卸」を行なつている。

これは、主として地方の小規模経営の商人を対象とする小口の卸取引であつて、一回の取引額が比較的少額であること、売買成立と同時に店頭で即時に商品を引渡し、かつその場で代金決済をすませる点で、通常の卸取引とは異る面を有しているが、その販売価額は、あくまでも卸価格によるものであり、購入者は、殆んど常通の小売業者であつて、その取引に際しては、商人特有の符牒を用いて行なうものであり、その販売形態は、粉れもなく「卸売」に該当するものである。

3 被告主張の「上様売り」、「所在不明」の取引は、いずれも「現金卸」によるものであり、その買受人は、いずれも小売業者である。

原告は、税法の命ずるところに従い、最大限の努力を尽して買受人の住所、氏名の確認に努めたのであるから(前記期間中の毛皮製品取引総数約七、〇〇〇件に比し所在不明等は僅か二十数件にすぎない。)、たまたまそれが真実に符号しないものがあつたとしても、原告がその真実性を確めるための有効な法的手段を有しない以上、いたしかたがない。

また、買受人の中には、どうしても住所、氏名を告げることを拒む者があり、かかる場合に、営業を犠牲にしてまでも税法の命ずる記帳義務を遵守すべきものとは考えられない。

仮に右記帳義務があるとしても、その義務懈怠について記帳義務違反の罰則適用があるのは格別、本来、購入者である小売業者に課せられるべき物品税について、卸売業者たる原告に遡つてその納税義務を転換される理由はない。

このように、「所在不明」、「上様売り」を理由とする本件更正処分は、実定法上の根拠を欠く恣意的違法な課税処分であるといわねばならない。

4 「取引否認」の一件は、購入者が巧みにその姻戚関係にある小売業者の名を冒用し、原告を欺いて購入したものである。

五、被告主張事実第四項のうち、別表第四の一ないし五「備考」欄に「申告済」、「繰延申告」、「裁決により減」と記載したものの取引は認めるが、その余は争う。

不申告分は、別表第四の一ないし五「販売先」欄記載の小売業者に対して販売したものである。

六、当該取引が「卸売」であるか「小売」であるかは、その取引の相手方が小売業者であるか消費者であるかという客観的事実のみによつて決すべき事柄であり、購入目的といつたような外部からは知り得ない主観的事情は一切考慮すべきではない。被告は、消費課税の建前から、第二、三種の物品を自家消費した場合のみなし移出規定(物品税法第六条第一項)に対応するような、みなし小売課税の規定を欠く第一種の物品の自家消費に対し、行政解釈によつて右立法の不備を補い、卸売業者の段階に遡つて小売課税をしようとしている。

物品税が転嫁を予定されている間接消費税である以上、小売業者への売渡行為に対して卸売業者に物品税が課税されるのは、当該卸売業者がその販売の時点において右課税原因事実(小売業者の自家消費目的)を明確に知つている場合に限られるべきである。

けだし、そうでないと、小売業者の購入目的について善意の卸売業者は、たえず不意打ち課税に脅かされ、転嫁不能の税負担を強いられることになる。

このことについては、被告が一般納税者に配付した物品税の説明書の中で「仲間売りした場合……は、小売に該当しませんが、同業者に販売する場合であつても、買受人が、その物品を自家用(たとえば記念品等)に使うことがわかつているときは、……『小売』となり……」と記述されていることによつても明らかである。本件更正にかかる毛皮製品は、原告の売渡しの際には、その商品自体は勿論、紙函、包装等の体裁からも、購入者である販売業者自身が記念品等自家消費の目的に使用するものであることの全くわからないものであり、かつ購入者から自家消費するものである旨の告知を受けたこともない。

従つて、販売業者の自家消費を理由とする本件更正処分は、なんら実定法上の根拠をもたない不意打課税であり、著しく信義則に違反するから違法である。

被告指定代理人等は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告主張請求原因事実第一、二項は認める。

二、同第三項は争う。

三、(一) 原告は、また、毛皮製品(第一種物品)の小売業者でもある。

(二) 原告は、被告に対し、昭和三九年九月分以降小売販売にかかる物品税の申告をしており、同年一一月五日、物品税第一種物品小売業開始申告書を提出し、同月六日付物品税第一種物品(毛皮製品)の販売申告書を提出している。

(三) 物品税の本質は、財政学上一般に消費税とされ、この消費に示される担税力に応じて税を課そうとするのである。

従つて、消費者の消費行為を直接に捕捉して課税する(直接消費税)のが最も本来の趣旨に合致し適当なわけであるが、少数の例外を除き一般的には課税技術上極めて困難なことであるので、それ以前の段階において課税する間接消費税の方式がとられたわけであるが、その方式も消費者の消費行為に接近した小売課税方式が最も理想的なわけで、第一種の課税物品については、その物品の性質に従い、その使用消費につながるものとしての小売の段階に課税の時期を求め、小売業者を納税義務者としているものであつて、物品税法第三条第一項は、第一種物品の納税義務者を当該物品の小売業者としているが、「第一種の物品の小売業者」とは、物品税基本通達第八条に規定するとおり「第一種の物品を消費者に販売することを業とする者」をいうのであつて、当該課税物品を継続的に消費者に小売行為をなす者は帰納的に小売業者というべきであり、商品流通機構上現実に存在している業態区分の呼称に左右されるものではなく、業態として小売行為が反覆継続されうる形態をとつておれば足り、現実には一回だけの小売行為であつたとしても、小売業者に該るものといわなければならない。従つて、第一種物品の製造業者、卸売業者であつても、第一種物品の小売をする場合は、小売業者の小売に含まれるのである(同条第二項)。

(四) 原告の毛皮製品の販売形態は、近畿、中国、四国、九州、名古屋方面の卸売業者、小売業者を対象とする外交販売を主体とし、店舗における販売は、その大部分が一現客を対象とする現金販売となつている。そして、右店頭における現金販売の大部分は、消費者を相手とする小売となつている。

原告の販売状況は、別紙第三の一ないし五記載のとおり、大多数の取引は一回一点限りのものであり、しかも、購入者が消費のための購入と申立てているものが一五件、購入者の表示が単に「上様」となつていて何人か不明なものが四件、購入者の所在が不明なものが二〇件、原告記帳の購入者が購入事実を否認しているものが一件となつている。

卸売販売であれば、通常その取引量も一、二点という少量に止まらず、もつと多量に上るのが通例であり、またその取引回数も一回或いは二回という少い回数ではなく、反覆した継続的な取引が行なわれるのが普通である。そして、また卸売であれば、取引相手の住所氏名も判明しているのが常態といつてよい。このような販売の実態に原告の営業形態を併せ考えると、本件取引が「小売」に該当することが明らかである。

四、原告が昭和三九年九月から昭和四〇年一月までに小売販売した毛皮製品の明細は、別表第四の一ないし五記載のとおりである。

よつて、本件各処分は適法であり、原告の本訴請求は失当である。

五、原告主張事実第六項は争う。

第一種物品の小売にかかる物品税は、小売に相当する行為について課されるものである。小売業者から購入すべき筋合のものであるのを、経済取引の便宜から小売業者を経由しないだけでさつて、そこには、その後に新たな小売が予定されておらず、実質は消費のための小売による購入の実体を備えているのであるから、当然その最終段階というべき卸売業者からの購入において課税されるべきである。

また、物品税法第六条の場合は、自家消費が製造と直結している場合であつて、製造と分離した消費行為を予定しえない場合であるから、小売の場合と同一には論ずることができない。

証拠として、原告訴訟代理人等は、甲第一号証の一ないし九、第二、三号証、第四号証の一、二、検甲第一、二号証を提出し、証人黒川留一、同上嶋喜次(第一、二回)、同辰巳満、同阿部康雄、原告会社代表者今小路正人の各尋問を求め、乙第二号証の一ないし六、第一二号証の成立はいずれも不知、第七号証の辰巳満作成部分(赤字部分)の成立は不知、その余の作成部分の成立は認める、その余の乙号各証の成立を認めると述べ、被告訴訟代理人等は、乙第一号証、第二号証の一ないし六、第三、四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第一二号証を提出し、証人山下成子、同橋本清二、同上嶋喜次(第二回)の各尋問を求め、甲第一号証の一ないし九の成立は不知、その余の甲号各証、検甲号各証の各成立は認めると述べた。

理由

一、原告主張請求原因事実第一、二項は、当事者間に争いがない。

二、(一) 被告は、第一種物品の卸売業者が第一種物品の小売をすることは物品税法所定の小売業者の小売に含まれる場合に該当する旨主張するので検討する。

第一種物品の物品税の納税義務者は、物品税法第三条第一項により、第一種物品の小売業者である。

ここに小売とは、第一種物品を消費者に販売する場合における当該販売行為をいい、小売業者とは、第一種物品を直接消費者を相手方として小売することを業とする者、つまり対価を得て直接消費者に対し第一種物品の販売を継続的に行なう者をいうと解せられる。

ところで、右条項は、納税義務者を第一種物品の小売業者とのみ規定しており、第一種物品の卸売業者が同時に右の如く第一種物品の小売を継続的に行なう場合、つまりある第一種物品の販売業者が卸売業と小売業を兼ねているため、第一種物品の卸売業者兼小売業者と目される場合を、その文言上、第一種物品の小売業者に該当しないとして排斥しておらず、実質的にみても、小売業者である者が同時に卸売業者たる地位を併有しているからといつて、物品税の納税義務を免れしめることは、租税負担の公平の原則に違反することになる。そうだとすれば、設例のような第一種物品の卸売業者兼小売業者もまた、物品税法第三条第一項所定の第一種物品の小売業者に該当し、物品税の納税義務を負うものといわねばならない。従つて、卸売業者と小売業者を二者択一的に峻別し、或る者が卸売業者であると認定される場合には物品税の納税義務者に該当しないとする原告の反論は失当である。

なお、原告主張事実第四項(四)2掲記の「現金卸」なるものは、経済的にみれば通常の卸形態である掛売とは別異の取引形態に属するけれども、物品税法上は、ともに卸売に該当すると解するのが相当である。

(二) ところで、物品税は、いわゆる間接消費税であり、その本質に関する被告の主張第三項(三)掲記の見解は、当裁判所もこれを是認するものである。

このように、物品税は、課税物品の消費に示される消費者の担税力に応じて課税しようとするものであるから購入者が売主と同種の第一種物品を取扱う小売業者である場合であつても、当該購入者が課税物品を自家用に供し、またはこれを第三者に無償譲与せんとの意図に出たものであるときはこれを消費者と解し、これに最も近い段階にある卸売業者兼小売業者に納税義務を負わせなければならない。

けだし、そう解しなければ、購入者がたまたま小売業者たる地位を保有しているだけで、租税負担の自己への転嫁を免れて一般消費者より不当に有利となり、租税負担の公平の原則に違背するにいたるからである。

ところで、この場合、小売業者である購入者が課税物品を購入するにあたり販売主に対して、課税物品を自家用に供し、または第三者に無償譲与する旨を表明したり、購入者の注文する容器、包装等の外観からこれを記念品、贈答品に供するものであることが客観的に明らかである場合には、経験則上、購入者は、購入後課税物品を自家用に供し、またはこれを第三者に無償譲与したものと推定して差支えない。

従つて、この場合には、卸売業者兼小売業者は、課税物品の小売をするものであるから、物品税込み価格で販売すべきであり、またそのことが可能な状態にあるから、これに物品税の納税義務を負わせてなんら不都合はないというべきである。

成程、成立に争いない乙第八号証と原告会社代表者の供述によれば、被告は、原告に対し、別表第四の一ないし五記載の取引以前において、「同業者に販売する場合であつても、買受人がその物品を自家用(たとえば記念品)に使うことがわかつているときは、その同業者は消費者の立場で買うことになりますので、この場合は『小売』となり、その同業者に販売したときに納税義務が発生します。」と説明したことが認められるけれども、その趣旨は、前記(二)記載のとおりであり、課税庁である被告が物品税法の趣旨を明確にし、納税者が部品税を消費者に転嫁する機会を失することを防止して納税者を保護せんがために、予め注意的に説明を施しているものと解するのが相当である。

(三) そして、原告は、卸売業者が小売業者に第一種物品を販売した場合、販売時において、右購入者が自家消費目的を有することを知り得なかつたにもかかわらず、右購入者がのちに自家消費をしたことを理由に課税するのは、著しく信義則に違背する不意打課税であり、また実定法上の根拠を欠く恣意的課税であつて違法である旨主張するけれども、被告がかかる場合に課税したことを認めうる証拠はないから、原告の右主張は失当である。

(四) 被告主張事実第三項(二)は、当事者間に争いがない。

原告は、被告の税法誤解による申告強要によつて物品税の申告書を提出させられた旨主張するけれども、第一種物品の卸売業者兼小売業者が物品税の納税義務者に該当することは、前記(一)認定のとおりであり、納税義務者たる原告は、物品税法第三五条第一項、第二九条第一項によつて、右各申告書の提出義務を負うから、課税権者たる被告において、原告に対しその提出を命じうることは当然であるし、原告会社代表者の供述によつて未だ被告による違法な申告強要行為があつたことを認めるに足らず、他に右主張事実を認めうる証拠はない。

(五) 成立の争いない乙第八号証ないし第一一号証と原告会社代表者の供述によれば、原告が別表第四記載の取引当時営業者としての永年の経験に基き、当該買受人の風体、購入数量、従前からの取引回数、符牒使用の有無等諸般の事情を総合して、容易に当該買受人が消費者であるか、小売業者であるかを判別しうる能力を有していたことならびに、すでに昭和三七年一一月から昭和三八年一二月までの間に、第一種物品たる毛皮製品合計数量四九点(うち上様売三六点)販売価格合計金七七〇、二〇〇円の小売をしていたことが認められ、他に右認定を動しうる証拠はない。

(六) そして原告が昭和三九年九月から昭和四〇年一月までの間に別表第四の一ないし五の「販売年月日」欄記載日時に「品名」、「数量」欄記載の第一種物品を「販売先」欄記載の購入者に対し「販売価格」欄記載の価格で販売したこと、「備考」欄に「申告済」「繰延申告」と記載した取引は原告において小売として被告に申告していること、「備考」欄に「裁決により減」と記載した取引は卸売であることは、いずれも当事者間に争いがない。

(七) 右(五)、(六)の各事実を併せ考えると、原告は、毛皮製品の卸売業者であると同時に、業務として直接消費者に対する第一種物品の販売行為を継続的に行なつていたことが明らかであるから、毛皮製品の小売業者でもあるということができる。

尚、検甲第一号証と証人黒川留一、原告会社代表者の各供述によれば、原告の店舗の所在する久宝寺問屋街では、従来から小売をしない建前になつており、原告店舗でも店頭に「小売りは致しません」との表示をしていたことが認められるけれども、原告も自認するように、サービス小売をしたこともあり、小売が絶対なかつたという程厳しい販売規制が行なわれていた証拠もないので、これらの証拠によつては、右認定を動かすことはできない。

(八)1 証人上嶋喜次(第一回)の供述により真正に成立したものと認めうる甲第一号証の七、八、成立に争いない乙第三、四号証、第五号証の一、二、証人阿部康雄の供述により真正に成立したものと認めうる乙第二号証の一、四ないし六、証人橋本清二の供述により真正に成立したものと認めうる乙第二号証の二、証人山下成子、同橋本清二、同阿部康雄、同上嶋喜次(第二回)の各供述によれば、別表第四記載通し番号(以下単に番号という。)1の販売先が外国人であり、原告に対して帰国土産として購入する旨告げて購入したこと、番号6の販売先について原告は履物(商)と記帳しており、購入者はその知人であつて、娘の嫁入用に購入したこと、番号21の販売先は衣料品店主の妻であるが、娘に着用させるために購入したものであり、原告から物品税込み価格である旨説明を受けて購入したこと、番号43の購入者は医者の妻であるが、マルシン浜中なる商店名を冒用して購入したこと、番号62の販売先は豚毛漂白・ブラシ製造業者であるが、原告に対して娘に着用させる旨告げて購入したこと、番号73の販売先は金属事務用品製造業者であり、妻に着用させたこと、番号78の販売先は化粧品店主の妻であるが、原告に対して自ら着用するものである旨告げて購入したこと、番号79の販売先は浴場経営者の妻であり、原告から物品税込み価格である旨証明を受けて購入したこと、番号98の販売先は個人であつて、原告から物品税込み価格である旨説明を受けて購入したこと、さらにいずれも購入回数一回のみ、購入数量一点のみであることが認められ、証人上嶋喜次(第一回)の供述中右認定に反する部分は前顕各証拠と対比して措信できない。

甲第一号証の一には前顕乙第二号証の一と異る供述記載がみられるけれども、本訴提起後原告の要請によつて作成されたものであり、甲第一号証の六には前顕乙第二号証の五と異る供述記載がみられるけれども、本訴提起後原告の要請によつて作成されたものであるので、いずれも前者は後者と対比して到底そのままには措信できない。また、乙第七号証には、番号43、78の販売先が小売業者である旨の供述記載がみられるけれども、これは前顕甲第一号証の一、七、八と対比して措信できず、その他右認定を動しうる証拠はない。

そうだとすれば、番号1、6、21、62、73、78、79、98の販売先は、いずれも消費者であると認められる。

2 次に小売業者は、一般に商号、屋号、商店の名称を有し、それらの名称を使用して取引するのが通例であり、また取引の回数や数量も多いのを通例とすること経験則上認められる。従つて個人名で一回限り一点のみ購入せる場合には、経験則上、購入者は、原則として小売業者でないと解せられるから、小売業者ではあるが特に個人名を使用して取引せざるを得なかつたという特別の事情が明らかでない限り、事実上小売業者でないと推定せられる。

そうだとすれば、番号48、67、94、97は、いずれも販売先が個人であり、購入回数一回、購入数量一点であり、しかも右特別の事情の存在を認めうる証拠はないから、右販売先は、いずれも消費者であると認められる。

3 また購入者が商人であつても、その商号からみて到底毛皮製品の小売を目的とするものとは考えられず、しかも毛皮製品を一回限り一点のみ購入せる場合には、経験則上、購入者は、原則として小売業者ではないと解せられるから、特に毛皮製品の小売をも行つているという特別の事情が明らかでない限り、事実上小売業者でないと推定せられる。

そうだとすれば、番号108は、販売先が下村諸機(株)であつて、その商号からみて到底毛皮製品の小売を目的とするものとは考えられず、かつ購入回数一回、購入数量一点であり、しかも右特別の事情の存在を認めうる証拠はないから、右販売先は、消費者であると認められる。

4 証人阿部康雄の供述により真正に成立したものと認めうる乙第二号証の三と同証言によれば、訴外山吉商店の代表者が昭和三九年一二月頃妹(竹田博の妻)に対し山吉商店名で原告からストールを買うことを許諾したこと、原告は、同月三〇日、山吉商店名義でストール一点を販売したことが認められ、証人上嶋喜次(第一回)の供述中右認定に反する部分は前顕各証拠と対比して措信できない。

甲第一号証の四には、前顕乙第二号証の三と異る供述記載がみられるけれども、前者は本訴提記後原告の要請によつて作成されたものであり、後者と対比して措信できない。

そうだとすれば、番号100の販売先は、消費者であると認められる。

5 原告は、卸売営業を円滑に推進するためにした消費者に対する販売が卸売営業に附帯するサービス販売として物品税の課税対象とならない旨主張するけれども、物品税法はかかる特例を認める規定を設けていないから、原告の右主張は、租税法律主義に違反するものとして失当である。

証人上嶋喜次(第一回)の供述によれば、番号13、22、38、96の各取引は、いずれも原告が洋傘等の卸売業務を円滑に推進する必要上洋傘等の小売業者の紹介を受けて来店した者に販売したものであるが、どうしても氏名が聞けないので「上様」と記帳したことが認められ、原告会社代表者の供述中右認定に反する部分は前顕証拠と対比して措信できず、他に右認定を左右しうる証拠はない。

そうだとすれば、番号13、22、38、96の販売先は、いずれも消費者であると推認するのが相当である。

6 従つて、右1ないし4の取引、すなわち、番号1、6、13、21、22、38、48、48、62、67、73、78、79、94、96、97、98、100、108取引は、いずれも小売に該当するものと等められる。

(九)1 被告は、番号18、24ないし27、33ないし35の取引がいずれも小売であると主張する。

しかし、これらの販売先が消費者であることを認めうる証拠はなく、却つて証人上嶋喜次(第一回)、原告会社代表者の各供述によれば、右取引の販売先がすべて小売業者であることが認められる。

2 被告は、番号4、5、7、12、47、50、51、57、66、69、76、87、88、91、101、102、124の取引がいずれも小売であると主張する。

しかし、これらの販売先が消費者であることを認めうる証拠はなく、却つて乙第七号証と証人上嶋喜次(第一回)の供述によれば、右取引の販売先がすべて小売業者であることが認められる。

3 しかも、右1、2のいずれの場合においても、原告が右販売にあたり講入者から課税物品を自家用に供し、または第三者に無償譲与する旨の意思表明を受けたこと、あるいは購入者の注文する容器、包装等から記念品、贈答品に供するものであることが客観的に明白であつたことを認めうる証拠はない。

従つて、被告の1、2の主張は失当である。

4 被告は、番号8、29、55の取引がいずれも小売であると主張する。

しかし、これらの販売先は、その名称自体によつては消費者であることを認めるに足らず、またこれらが消費者であることを認めうる証拠はなく、たとえこれらが小売業者であるとしても、前記3の事由の存在を認めうる証拠はない。

従つて、被告の右主張は失当である。

三、(一) 第一種物品の課税標準は、物品税法第一一条第一、二項により、小売価格から当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額を除いたものとされており、物品税法の課税物品表によれば、毛皮製品は、第一類に該当するので、その税率は同法第一四条により物品の価格の百分の二十である。

(二) 以上を要約すると、昭和三九年九月分の小売は、番号1ないし3、その販売価格は、合計金五八、五〇〇円、その課税標準は、合計金四八、七四九円、その税額は、金九、七五一円となり、同年一〇月分の小売は、番号6、9ないし11、その販売価格は、合計金九〇、八〇〇円、その課税標準は合計七五、六六五円、その税額は、金一五、一三五円となり、同年一一月分の小売は、番号13ないし17、19ないし23、28、その販売価格は、合計金一五二、五五〇円、その課税標準は、合計金一二七、一二三円、その税額は、金二五、四二七円となり、同年十二月分の小売は、番号30ないし32、36ないし40、42ないし46、48、49、52ないし54、56、58ないし62、64、65、67、68、70ないし75、77ないし86、89、90、92ないし100、103ないし110、その販売価格は、合計金一、三四三、九四〇円、その課税標準は、合計金一、一一九、九三三円、その税額は、金二二四、〇〇七円となり、昭和四〇年一月分の小売は、番号111ないし122(番号123は、同年二月分として別途申告済であるから除く。)、その販売価格は、合計金二六二、五〇〇円、その課税標準は、合計金二一八、七四七円、その税額は、金四三、七五三円となる。従つて、本件更正処分のうち、昭和三九年九月分については、税額金九、七五一円を超える部分、同年一〇月分については、税額金一五、一三五円を超える部分、同年一一月分については、税額金二五、四二七円を超える部分、同年一二月分については、税額金二二四、〇〇七円を超える部分、昭和四〇年一月分については、税額金四三、七五三円を超える部分は、いずれも小売価格を過大に認定した違法がある。

(三) ところで、原告は、昭和三九年一一月分については申告課税標準金四六九、〇〇〇円、申告税額金九三、八〇〇円を超える部分に限定して取消しを求めているにすぎない。

(四) 結局、被告が昭和四一年二月一日付でした原告の、(1)昭和三九年九月分の物品税の税額を金一三、五八〇円と更正した処分のうち金九、七五一円を超える部分、(2)同年一〇月分の物品税の税額を金二九、九八〇円と更正した処分のうち金一五、一三五円を超える部分、(3)同年一一月分の物品税の税額を金一二〇、二〇〇円と更正した処分のうち金九三、八〇〇円を超える部分、(4)同年一二月分の物品税の税額を金三一七、二〇〇円と更正し原告の審査請求にもとづき一部減額された処分のうち金二二四、〇〇七円を超える部分、(5)昭和四〇年一月分の物品税の税額を金四九、六八〇円と更正した処分のうち金四三、七五三円を超える部分、ならびに右各更正増差額に対応する加算税((1)、(2)については無申告加算税、(3)ないし(5)については過少申告加算税)の賦課決定処分は、いずれもかしある行政処分として、取消しを免れないというべきである。

四、よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 辰已和男 裁判官 仙波厚)

別表第一 更正額表

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別表第二 申告額表

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別表第三の一 販売状況表(昭和三九年九月分)

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別表第三の二 販売状況表(同年一〇月分)

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別表第三の三 販売状況表(同年一一月分)

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別表第三の四 販売状況表(同年一二月分)

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別表第三の五 販売状況表(昭和四〇年一月分)

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別表第四の一 販売明細表(昭和三九年九月分)

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別表第四の二 販売明細表(同年一〇月分)@は単価

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別表第四の三 販売明細表(同年一一月分)@は単価

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別表第四の四 販売明細表(同年一二月分)@は単価

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別表第四の五 販売明細表(昭和四〇年一月分)

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略符号表

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